11月20日(金)オンラインにて、「IoTイノベーションチャレンジ2020 決勝大会」(愛称:IoTイノチャレ、主催:一般社団法人 組込みシステム技術協会(以下JASA))が開催されました。IoTイノチャレはこれからの産業界を牽引できるIoTビジネス人材の発掘・育成をねらいとしたコンテストで、今年で3回目の開催です。
国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標(169のターゲット)の中から課題を抽出し、IoTを活用したソリューションを企画・提案します。特徴として、参加チームには教育プログラム(セミナー/ワークショップ、計7日間)が提供され、今年は4名の新たな講師を加えた合計21名の講師と1名のトークゲストが登壇しました。
コンテストには計28チームがエントリーし、書類審査とプレゼンテーション審査によりファイナリストとして8チームが選出され決勝大会に進出、12名の審査員と多くの観客を前に、熱いプレゼンテーションを繰り広げました。今年は初のオンライン実施のため、チーム全員でオンラインツールの仮想背景を揃えたり、オリジナルのチームユニフォームを着て登壇したりと、ソリューションの特徴やチームの一体感を視覚的に分かりやすく伝わる場となりました。
1チームあたり5分間のプレゼンテーションと7分間の質疑応答で構成されたファイナリストによるプレゼンテーションの模様をレポートします。

ファイナリストプレゼンテーション 登壇順 *チーム名(会社名・団体名)

  1. Go To イノベーション (エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社)
  2. BULL (大旺工業株式会社)
  3. パシフィコショット (エプソンアヴァシス株式会社)
  4. Break Bad (エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社)
  5. Dense(3k+1) (株式会社シーエーシー)
  6. 松野谷 石角 (株式会社クロスキャット)
  7. Chelsy (株式会社エクスモーション)
  8. CimAsoC (株式会社シーエーシー)

IoTで実現するサステナビリティ・シーフード

Go To イノベーション
(エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社)

アイデア
魚を獲りすぎている現状を変え、サステナブルな漁業を実現するため、生産者と消費者をつなげることで漁獲量の最適化を図るシステム「IoTで実現するサステナビリティ・シーフード」を提案しました。
アイデアの特徴
世界の魚の3割が獲りすぎという現状から、海の豊かさを守るというSDGsの目標を達成するために考案したアイデア。現在の漁獲割当制度は、生産者に対して生産者の負担が増加すること・生産者の動機づけが弱いこと、の2つの課題があります。これらの課題を解決するために考案したのが、IoTセンサーで自治体への漁獲量報告を自動化する“うおっち”と、これと連動した通販アプリ“うおふる”です。生産者と消費者がともにサステナブルな選択ができるシステムで水産資源を守ります。
質疑応答
審査員からは、利用者が我慢するのではなく取り入れたくなる仕組みに注目したのが良いと評価されました。その上で、「漁獲量を減らしながらもビジネスとして成立するポイントは?」(白坂氏)との質問には、「特定の種を獲りすぎていることが問題なので、他の魚の漁獲量を増やすなどして、全体の漁獲量は変わらないようにする」とのこと。「システムを使わずにズルする人が出てしまうのでは。消費者にはどう訴求するのか?競合に勝てるのか?」(和泉氏)との問いには、「法律で規制がかかるので問題ないと思う。消費者に対しては、通販アプリ“うおふる”と連動した実店舗の設置で広めていきたい。競合に対しては柔軟な小売りができるので優位性はあると思う」と答えました。

Hello World 視覚障がい者が困らない世界を創る実現する

BULL (大旺工業株式会社)

アイデア
板金屋の枠にとらわれず世の中に貢献していきたいという想いから、視覚障がい者へのサービス「〜Hello World〜視覚障がい者が困らない世界を創る」を提案しました。
アイデアの特徴
盲導犬を必要としている人に対して頭数が不足している、動物アレルギーで盲導犬を利用できない人がいるという現状を受けて考案されたアイデアです。視覚障がい者が安心安全に外出できるよう、盲導犬の代わりになる眼鏡が「Hello World」です。カメラで画像認識をし、音と振動とリズムでその場の状況を把握することで、障害物の有無などの情報を視覚障がい者に伝えたり、信号機の色や扉のドアの形などを認識したりできます。また、AI技術によって交通の異常を地方自治体に伝えるなどのデータ活用ができます。言語の代わりに音の高低で情報を伝えるため、海外での広がりの可能性もあります。
質疑応答
審査員からは社会的課題・ニーズからスタートした良いアイデアだと評価されました。その上で、「実際の利用者とのやりとりはあったのか?なぜ眼鏡にしたのか?」(篠原氏)との質問には、「視覚弱者の方から話を聞いてアイデアに活かした。白杖を持つこと・見ている方向を把握することを考え、ハンズフリーの眼鏡にした」とのこと。「技術的に実現可能だが、なぜ今までなかったのか?」(竹森氏)との問いには、「市場が小さいと思われていることが原因だと思う。海外でも使えるものなので市場は小さくないはず。聴覚障がい者にも応用できると思う」と答えました。「生活シーンのどれくらいを補えると試算しているのか?」(田丸氏)との問いには、「食事、外出、買い物といった場面で利用できることを考えている」との回答でした。

Colorful City サービスプラットフォーム

パシフィコショット
(エプソンアヴァシス株式会社)

アイデア
チーム結成以来、地元・長野の交通インフラの課題解決を考えてきたチームです。自宅にいるユーザーと事業者やユーザー同士をつなげる「いつまでも生き活き暮らすための仮想都市サービスプラットフォーム “Colorful City”」を提案しました。「彩り豊かな毎日の創造」を目指していることが、サービス名の由来です。
アイデアの特徴
思うように外出や移動ができない交通弱者、特に高齢者のニーズを満たしたいと考案されたアイデアです。ユーザーはタブレットやVR機器を使って、“Colorful City”の中で買い物をしたり趣味の教室に通ったり、友人と話したりと様々なことができます。ECサイトよりもリアルな体験が可能で、高齢者の見守り機能も兼ねているのが特徴です。ハイテクノロジーが苦手な方でも使いやすくするためにスマートスピーカーなどの簡易デバイスを用意したり、実際に高齢者にVRを体験してもらい、拒否感やネガティブな反応がないことを確認したりしました。コンテンツを充実させ、高齢者以外のユーザーへの展開も予定しています。
質疑応答
審査員からは夢のある面白いアイデアだと評価されました。その上で、「何を解決し、何が課題として残るのか?」(中川氏)との質問には、「まだ整理できてはいないが、今後の展開として高齢者と一般市民をつなぐマッチングサービスの展開も考えている」と答えました。「高齢者のITリテラシーの問題と、自治体との協働についてどう考えているのか?」(増田氏)という問いには、「実際に高齢者の方に聞いてみたところ、ZoomやLINEを利用したことがある人は多かった。自治体やコミュニティとの連携もこれから考えていきたい」と回答。「コンテンツとユーザーの増やし方はどう考えているのか?」(丸山氏)との問いには、「まずはローカルから始めて、少しずつコンテンツとユーザーを増やしていきたい」と答えました。

Yummy Bugs -食卓に、虫を-

Break Bad
(エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社)

アイデア
チーム名は「慣習を打ち破る」という俗語。そんなサービスを企画したいという思いから昆虫養殖業における生産性向上アイデア「Yummy Bugs -食卓に、虫を-」を提案しました。
アイデアの特徴
温室効果ガスの多くを占めるCO2排出量が日本は世界ワースト4位でフードマイレージは世界ワースト1位、温室効果ガスの排出原因の半分は畜産業からという現状から、家畜に代わるタンパク質として昆虫食に注目し、昆虫養殖システムを考案しました。IoTの活用により高品質で低コストな昆虫養殖業の生産を実現します。また飼育方法をパッケージ化して飼育業者に販売し、アプリで飼育アドバイスを提供することで昆虫養殖を普及させ、2030年には一般家庭の食卓に昆虫食が並ぶ想定です。
質疑応答
審査員からは非常に発想が豊かな提案だと評価されました。その上で、「一般の人にどう昆虫食を広めていくのか?センサーを使ってどのような情報を集め、生産性向上につなげるのか?」(森崎氏)との質問には、「昆虫食に興味を持っている人は多いと思う。最初は、虫が見えない形に加工し、プロテインバーなどで健康志向の方をターゲットに広めたい。集めるデータは昆虫によって変わるため、どのデータが必要かは改めて調査が必要だと考えている」とのこと。「どのように需要を開拓していくのか?」(鷲崎氏)との問いには、「プロモーションが得意な大手スーパーや養殖業者と連携して開拓していきたい」と答えました。「IoTを活用した飼料の安定的な供給、競合との差別化についてはどう考えているのか?」(鷲崎氏)という質問には「一部の昆虫の飼料となる草の栽培にIoTを活用できると思う。差別化については、競合の多いコオロギ以外の昆虫飼育を考えている」と回答。「昆虫養殖の難しい点は?」(白坂氏)との質問には、「実際に養殖業者から話を聞いた中では、どのような昆虫が出来上がるかを予測するのが難しいようだ」と答えました。

Kairos(カイロス)〜地方課題を解決する出会いの場〜

Dense(3k+1)
(株式会社シーエーシー)

アイデア
地方活性化問題を取り上げ、「Kairos(カイロス)〜地方課題を解決する出会いの場〜」を提案しました。Kairosはギリシャ神話の男性神で、ギリシャ語で「機会(チャンス)」意味します。
アイデアの特徴
地方では、企業間のつながりが薄いためにうまく連携できず、地域活性化につながらないことが多々あります。それを解決するのがプラットフォーム「Kairos(カイロス)」です。このプラットフォームは一般社団法人として運営され、定期的にイベントを開催し、地元企業に交流の場を提供します。イベントでは課題を抱える地元企業と、その課題を解決できる地元企業をマッチングさせて新規事業を立ち上げるなど、地域で地域の課題を解決でき地元企業が成長する仕組みを作ります。
質疑応答
審査員からは、わかりやすくイメージしやすいプレゼンテーションだと評価されました。その上で、「専門のコーディネーターが必要だと思うが?」(有馬氏)との質問には、「株式会社シーエーシーがコンサルティングを行うことを想定している。将来的には、そういった人材を育てていきたい」と回答。「今回特定の地域に着目しているが、その地域に競合はいないのか?強みや差別化のポイントはどこか?」(和泉氏)との問いには、「実際の地域の方と検討した限りでは複数のアプローチがあってもいいとのこと。差別化できるだけの技術も社内で保有していると思う」と答えました。「同じ地方ということで、例えば奈良県でも展開可能か?」(小西氏)との問いには、「新しいものを取り入れやすい地域かどうかによると思う」との回答でした。

呼吸で健康診断 呼気測定器付きマスクフレーム

松野谷 石角 (株式会社クロスキャット)

アイデア
日本人の死因1位のがん。その中でも多い肺がんや胃がんの早期発見・早期治療を目的に、マスクに着想を得たソリューション「呼吸で健康診断 呼気測定器付きマスクフレーム」を提案しました。
アイデアの特徴
呼気と疾病には大きな関連性があることから、肺がん・胃がんの指標となる物質を呼気から検出できるマスクフレームを考案しました。物質を検知できるセンサーが内蔵された、取り外し・洗浄可能なフレームをマスクの内側に装着して使用します。Bluetoothでデータを収集し、アプリでモニタリングします。このフレームを使用することで、がんだけでなくCOVID-19や糖尿病、パーキンソン病などの症状である嗅覚異常の検出も可能です。
質疑応答
審査員からは非常に具体的なアイデアだと評価されました。その上で、「ターゲット層の反応は?」(篠原氏)との質問には、「社内アンケートを取って、マスクフレームという発想を得た」と回答。「ずっと装着している必要があるのか?」(竹森氏)との問いには、「がん成分の検知には10秒程度の装着で十分だが、マスクフレームを使うと呼吸がしやすいのでずっとつけていたくなると思う」と答えました。「医療や介護の現場で使われているのか、いないのか?使われていないとしたら、その理由は?」(田丸氏)という質問には、「今後調べていきたい」という回答でした。

誰もが参加できるSDGsへ SDGsコンシェルジュ

Chelsy (株式会社エクスモーション)

アイデア
SDGsを実現するには誰もが取り組めることが必要ですが、これが難題です。そこで、個人が積極的にSDGsに参加できる世界を目指して「誰もが参加できるSDGsへ SDGsコンシェルジュ」を提案しました。
アイデアの特徴
「何をすればいいのかわからない」「SDGsに取り組んでいる企業を知らない」という個人がSDGsに参加しやすくなるように、SDGsに関するあらゆる情報を提供するサービスを考案しました。ユーザーの興味や趣味嗜好を入力することで、それに伴ったSDGsの情報をコンシェルジュが提示し、楽しく継続的にSDGsに取り組めるようゲーミフィケーションを取り入れます。まずはデジタルネイティブで発信力が高いZ世代をターゲットにし、普及を狙います。集積したデータは投資家や研究機関に提供し、データビジネスを展開する予定です。
質疑応答
審査員からは、難しいテーマに積極的に取り組んだアイデアだと評価されました。その上で、「IoTがどこに関わってくるのか?どこにニーズがあるのか?」(増田氏)との質問には、「データ活用という広い意味でのIoTを考えている。情報を欲しいと考えている人は一定レベルでいると思う」とのこと。「どうプロモーションするのか?これを皆が使うようになったら、どのような世界が待っているのか?」(丸山氏)との問いには、「スマートフォンのアプリなのでまずは若い人に使ってもらい、SNSで広げてもらうことを考えている。自分たちのサービスが、世の中がもっとSDGsに取り組むようになる推進力になれば」と回答。「もう少し投資家インセンティブがあるといいのでは?情報のスポット利用を検討したか?」(森崎氏)との問いには、「新規でESG投資する投資家についてはこれから検討したい。情報をスポットで抽出し、コンサルタントビジネスにつなげることは考えている。」との回答でした。

eスポーツで差別をなくす!Agel World(アゲルワールド)

CimAsoC (株式会社シーエーシー)

アイデア
障がい者サポート事業を行っている株式会社シーエーシー。障がい者への偏見をなくしダイバーシティ&インクルージョンを実現する手段として「eスポーツで差別をなくす!Agel World(アゲルワールド)」を提案しました。
アイデアの特徴
誰もが平等に参加できるeスポーツに注目し、バーチャルなeスポーツプラットフォーム「Agel World」を考案しました。プレイヤーの特性を分析した上で、個々に適したコーチとマッチングするコーチングサービスや、集積したデータを分析してアドバイスに活かすサービスなどがあります。障がい者がeスポーツ分野で活躍し社会参画する機会を広げることで、障がい者への差別や偏見をなくしていきます。また、データは企業に有償提供して社会の福祉課題を解決する活動に役立てます。
質疑応答
審査員からは夢のあるアイデアだと評価されました。その上で、「障がい者の方の反応は?障がい者コーチは確保できるのか?」(有馬氏)との質問には、「現在eスポーツ団体等に問い合わせ中。eスポーツの専門学校とも連携したい」とのこと。「コーチングには市場性があるのか?匿名データはどこに提供するのか?」(中川氏)との質問には、「eスポーツが日本で普及しない理由の1つとしてコーチ不足があるので需要はあると思う。データはメーカーや病院への提供を考えている」と回答。「障がい者がeスポーツで稼いでいくための課題は何か?どのようなメリットがあるのか?」(鷲崎氏)という質問には、「まずゲームではなくスポーツだということを周知し、自分にもできるものだと知ってほしい。障がい者の活躍を伝えられるのがメリット。」との回答でした。

 

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