準優勝
eスポーツで差別をなくす!Agel World(アゲル・ワールド)
チーム名:CimAsoC
企業名:株式会社シーエーシー
参加者:岩本峻樹 増山祐太 小川真生子 竹島瑛帆
決勝大会にて使用したスライド資料
上段左 竹島瑛帆、右 岩本峻樹、下段左 増山祐太、右 小川真生子。
チームCimAsoCが所属する株式会社シーエーシー(CAC)は、IoTイノベーションチャレンジを人材育成の場として戦略的に活用している独立系のITベンダーである。現時点ではIoTビジネスとの関係は薄いものの将来を見据えて社員を送り込んでいる。実際、CimAsoCのメンバーもCobolエンジニアの管理、資産管理ツールの運用、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)プロジェクトの推進など、IoTと縁遠い業務に携わる。
CACの送り出すチームは2019年にはJASA特別賞を受賞し、2020年の2チームはともに決勝大会に進出した。CimAsoCのメンバーが参加したのも、上長からの指名を受けてのことだ。「新規プロジェクトに興味があると言っていたら誘われた」(竹島)。メンバーの社歴は2年〜10年とバランスの取れた構成だ。同じ産業向け部署に所属する現場技術者の4人だが、客先に常駐するメンバーもおり、まずは「はじめましての挨拶から始まり、チームビルディングに時間がかかった」と社歴10年でリーダー役の岩本は笑う。ちなみに決勝大会に進出したもう1チームは、3人の高専出身の新卒技術者で構成したチームである。
新型コロナの影響もあって、CimAsoCの打ち合わせはすべてリモートだった。テレビ会議は顔の映像を出さずに行ったが、表情が読めないなかでの沈黙がプレッシャーになるなど、アイデア出しに時間がかかった。就業を終えた19時ころから始め、熱を帯びた議論が夜半に至ることもあったという。「相談会で講師の方から多くの意見を頂いたが、優先順位がつけらず取捨選択にとても迷った」(小川)、「今となってはいい経験だったと思うが、客先から戻って来て自宅ですぐに会議という生活は大変だった」(竹島)と当時を振り返る。
打ち合わせではまず、参加したセミナーやワークショップについて情報共有を行い、参加できなかったメンバーとの意識を合わせた。打ち合わせ終了時には、岩本が2人1組のペアに“宿題”を与え、議論の方向性を整理するとともに進捗を管理した。
テーマ設定に当たって岩本は、まず「〇〇差別の解消」をお題として出した。各自がアイデアを持ち寄ったなかから、ニュースなどで取り上げられる機会が多くなり、健常者と障がい者が対等に競技でき、プレーヤーとしてもコーチとしても活動できるeスポーツを選んだ。障がい者への理解と社会参画にもつながるアイデアである。豊かな将来性と、「考えていて楽しいテーマ」(小川)だったこともメンバーの背中を押した。もっとも、増山こそ知見を持っていたが、他のメンバーはeスポーツにまったく不案内。一から勉強を始めた。
公開プレゼンテーションまでは「着眼点がいいね」と褒められるなど順調だったが、決勝大会に至るまでには紆余曲折があった。当初はリアルな会場を設置してeスポーツの大会を開催する企画だったが、相談会で「障がい者の方が、(自分の足で歩くなど)自分にできないことをバーチャルで体験できれば感動につながるのでは。もっと視野を広くしたほうが良い」と指摘され方向を転換した。
深夜まで議論した結果として、障がい者が安心できるプレー環境とeスポーツの魅力が伝わる観戦環境とをバーチャルの世界で提供する「Agel World(アゲルワールド)」にたどり着いた。
決勝大会のプレゼンテーションは、一人に負担をかけることを避けるために、メンバーが入れ代わり立ち代わりビデオカメラの前に登場して話しかけるスタイルをとった。「人がいないところで話すことの大変さを味わった。頷き一つで救われることを改めて感じた」という。
IoTイノベーションチャレンジに参加することで、「情報感度が高まった。Webで情報収集するときに、今までと違ったテーマもクリックするようになった」(岩本)、「これまでは新規市場の開拓など考えたこともなかっただけに得難い経験だった」(小川)、「お客さんとの会話の幅が広がった」(竹島)と、メンバーは自らの変化を実感する。これからイノベーションチャレンジに挑戦する方々には、「自分の提案に愛情を持ってほしいし、コンテストを楽しんでほしい。そうしないと心に響く提案にならない」(岩本)、「自分の得意分野で力を発揮してほしい。それがチームに貢献することにつながる」(小川)とエールをおくる。
(敬称略)
(構成・文:ET ラボ 技術ジャーナリスト 横田英史)