優勝
~Hello World~
視覚障がい者が困らない世界を創る
チーム名:Bull
企業名:大旺工業株式会社
参加者:黄 光明 李 潤太 若杉 祥一
※社名の「旺」は正しくは日偏に玉の表記となります
決勝大会にて使用したスライド資料
右から李 潤太、黄 光明、若杉 祥一
大旺工業株式会社は板金加工を手掛ける群馬県太田市の中堅メーカー。その大旺工業の入社間もない若手技術者の黄と李、品質保証部の若杉部長がタッグを組んだのがチームBullである。黄はレーザー加工機のデータ作成、李は現場での板金加工に携わる。IoTイノベーションチャレンジでは若手の2人がアイデアの企画・立案を主に担い、若杉はアドバイザー役に回った。
黄はある日、若杉からIoTイノベーションチャレンジに参加してみないかと持ち掛けられた。大学で経営を学び、「起業に興味があり、自分でビジネスのプランを立て、人前でプレゼンしたい」と思っていた黄には渡りに船だった。さっそく、高校の同級生でラグビー部のチームメイトだった李を誘った。ちなみにチーム名は、株式市場における強気を意味する「Bull(雄牛)」に由来する。前進や上り調子といった思いを込めたという。
Bullが活動を始めたのは、オンラインでのセミナーを目前に控えた7月下旬だった。会社は全面的にBullをサポートした。ちょうど佳境を迎えていた社内研修と重なることもあったが、IoTイノベーションチャレンジの教育プログラムを優先するようにスケジュールを組み替えた。会社のバックアップもあって、2人は連日のように就業後に議論を重ねた。所属部署こそ異なるが、同じ建屋で仕事に携わる黄と李は直接会って話し合った。それぞれの成果物はSlackで共有した。しかし、「これだ」というアイデアがなかなか出てこない。そんな状態が、書類審査直前まで続いた。
そこで利用したのがワークショップで習った「アイデア出し」の手法である。出てきたアイデアは3つ。VR(バーチャル・リアリティ)を使って公園で遊ぶアプリやマッチングアプリも考えたが、最終的には、ストーリーが作りやすく将来性のある「ビデオカメラを使って視覚障がい者を支援する」アイデアに絞ることにした。優勝した「Hello World」の原型の誕生である。もっとも、このタイトルはなかなか決まらなかった。大学のゼミでプログラミングを学んだ黄が、プログラミング言語の学習で最初に作る「Hello Worldと画面に表示するプログラム」から思いつき命名した。「最初の一歩」という訳だ。
Bullは、若手2人がインターネットで調べたり、若杉の助言を得たりしながら、AIによる動画の画像処理やメガネに取り付ける骨伝導スピーカーなどの技術を取り入れ、仕様と機能を拡充した。アイデアの方向性が決まったあとは、「アイデアがどんどん出てきて、まとめるのに時間がかかった」という。発散ぎみだったアイデアが収拾に向かうキッカケは、「もっとシンプルで、聞いている人にとって分かりやすいものにすべき」という相談会でのアドバイスだった。アドバイスを生かしてシンプルで分かりやすくなったが、公開プレゼンテーション審査で他チームの資料を見て「Bullは大学の卒論レベル」(李)と愕然とする。一方で他チームの資料の見やすさやプレゼンテーションの仕方は、とても勉強になったと振り返る。
それでもシンプルで分かりやすいという方針を貫いたBullだったが決勝大会までには手痛い失敗もあった。プレゼンテーション資料の作成に時間を取られて質疑応答の準備に時間を避けず、「セミファイナルでの質問にまったく答えられなかった。準備する大切さを学んだ」(黄)のだ。決勝大会には想定問答集を携え、審査員からの厳しい質問に臨んだ。プレゼンテーションで意識したのは、暗くならないようにすることとビデオカメラから目線がズレないようにすることだった。
IoTイノベーションチャレンジの90日間は、「専門用語が多く、教育プログラムで理解できたのは30〜50%くらいだったかもしれない」と語るが、若い2人にとって得難い経験となった。「SDGsなど業務に無関係のテーマに触れて興味の範囲が広がった。特に色々な人と意見を交換し、アイデア出しを行ったワークショップが良い経験になった。社内に参加したい人がいれば、イノベーションチャレンジにまた出たい」(黄)という。リモートでの講義だったのも良かったという。「分からなければ、講義を聞きながらインターネットで調べられるし、隣の若杉にも尋ねられる。リアルな講義だったら、さすがに隣とおしゃべりはできない」(李)。
若手2人は会社からかけられた期待を実感しているという。「IoTイノベーションチャレンジでの経験を、会社にとって重要テーマになっているスマート工場やAI活用、IoT活用に生かしていきたい」と語る。
(敬称略)
(構成・文:ET ラボ 技術ジャーナリスト 横田英史)
関連リンク
Bulletin JASA機関誌内、大旺工業株式会社 紹介記事(2020年7月)